現代技術の動向に敏感な人なら、骨伝導ヘッドフォンという単語を聞いたことがあるのではないでしょうか。日本で人気を博したこのガジェットカテゴリーは、世界でも成功間違いなしと見られています。

まさに最新技術ですが、骨伝導という概念そのものは数世紀前から存在します。実際、最初の功労者は18世紀の作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンです。ベートーヴェンは難聴を患い、何も聞こえなくなったため、ピアノと顎の骨をつなぐ特製の指揮棒を作りました。その指揮棒をピアノに押し当てると、自分の作った美しい交響曲を聴くことができた、と言い伝えられています。

従来型のヘッドフォンは空気を押すことで音の振動を生み出しますが、骨伝導ヘッドフォンは振動を、鼓膜を迂回(うかい)して内耳の骨に直接伝えます。

近年、聴覚障害の世界的な増加に伴い、骨伝導ヘッドフォンの需要は急速に拡大しています。たとえ聴力に問題がないとしても、骨伝導ヘッドフォンを試してみるべき理由はたくさんあります。まず、周囲の環境を認識しやすくなるため、サイクリングやランニングといった屋外活動の安全性がずっと高まります。音の聞こえ方も従来型のヘッドフォンと異なり新たな体験をすることができます。

しかし、最も説得力のある理由はシンプルで、負担の多い大切な鼓膜に休息の時間を与えてくれることです。

世の中を見渡すと、クラブやバーに限らず、アラームやサイレンなど、現代社会は大きな音音に囲まれています。さらには、低音を強調したヘッドフォンの爆音にさらされることは、鼓膜にとって最も不要なことと言えるでしょう。事実、世界保健機関(WHO)は、11億人が難聴になるリスクにさらされているという警告を発しており*、骨伝導の重要性はかつてないほど高まっています。

しかし、骨伝導技術は大きく複雑なものになる傾向があり、普及の妨げになっていました。ところが近年で新しい動きが生まれます。

それが、日本のベンチャー企業BoCoの取り組みです。BoCoは、イヤフォンのように装着できるほど小さい骨伝導ヘッドフォンを開発しました。BoCoのearsopen®ヘッドフォンは、耳たぶを挟むクリップタイプなので、スタイリッシュで目立たないだけでなく、外耳道をふさがないため、周囲の音も聞こえてきます。代表取締役社長の謝端明氏は次のように述べています:

「鼓膜に負担をかけることなく音を届ける技術で、聴覚障害者だけでなく難聴リスクを抱える全世界の人々のクオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)を豊かにしていきたいと思います」

earsopen®は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する人気クラウドファンディングサイトに登場したことをきっかけに、国境を越えて注目を集めました。日本全国の約1,000店舗で販売が開始され、瞬く間にヒット商品の仲間入りを果たしています。それでも、謝氏はまだ始まりにすぎないと考えており、世界規模の急成長を視野に入れています。

「来年度の目標は売り上げ5倍増。海外比率も7割に引き上げるつもりです」

BoCoの取り組みはヘッドフォンに留まりません。docodemoSPEAKER®はBluetooth内蔵の小さなデバイスで、骨伝導技術によって音を増幅し、あらゆるものをスピーカーに変えてしまいます。キッチンカウンターや机、たんすに手のひらサイズのスピーカーを置けば、空気の代わりに物体が振動し、お気に入りの音楽を楽しめます。

開発者によれば、現代的なデザインのdocodemoSPEAKER®は、アコースティックベースの低音を聴くのにとりわけ適しているそうです。bathCAPSULEという別売りのカプセルを購入すれば、docodemoSPEAKER®を完全防水スピーカーに変えることもできます。つまり、スピーカーをバスタブに浮かべ、文字通り、音楽にどっぷり浸れるのです。

boco

日本市場で確固たる地位を確立した今、BoCoは世界に挑もうとしています。それは、経営管理システムを選定する際にも重要であり、謝氏にとってクラウドの柔軟性は強く惹かれるポイントでした。

「主要業務を司るシステムをクラウド上で構築、運用することなど10年前は考えられませんでした。多くの企業が膨大な時間とコストをかけてオンプレミスのERPを導入し、経営の可視化に取り組みましたが、結局、すぐに硬直化してしまいます」(謝氏)

BoCoがNetSuiteを採用したのは、すべての主要プロセスを1つのクラウドプラットフォームに統合し、新たな市場に進出するたび、プラットフォームを拡張していきたいと考えたためです。謝氏は次のように言い添えています:

「クラウドEPRは競争力を強化するために不可欠です」

NetSuiteの実装も完了し、BoCoの世界制覇の準備は整いました。

そして、この記事を読んだみなさんはその目撃者でもあります。

*https://www.who.int/mediacentre/news/releases/2015/ear-care/en/